第3の男子 - 好きにならずにいられてよかった〈7〉

好きにならずにいられる理由を探してホッとする。
好きになってもらえるはずがないから、傷つく前に早々退散。
ホントはどーでもいい理由にかこつけて。
好きにならずにいられてよかった、恋に落ちてもよかった瞬間。


幼い頃に観たアニメ「魔法の天使 クリィミーマミ」の主題歌*をいまだに思い出しては、甘い歌声とともにその歌詞を反芻する。

♪ 男の子とちがう女の子って
 好き と 嫌い だけで 
普通 がないの 

「好き」と「嫌い」だけで「普通」がない……本当にそうなのだろうか?
「好きな男子」と「嫌いな男子」と、あともう一つ、「やぶさかではない男子」というものがあるのではないだろうか。

「 私のことが好き? んーまぁ……そんなに好きだっていうんだったら私もやぶさかではないっていうか? むしろ好みっていうか。 でもなんだそっか私のこと……気づいちゃったんだ? やぶさかじゃないね。今すぐ付き合おッ!」

……という第3の男子が。

そんなやぶさかではない男子(以下“やぶ男”)から実は最近、食事の誘いを受けたのだった!

彼はとにかく顔がとても素敵♡ ひと目見た瞬間「ヤバいッ!」と重い鋼鉄で出来た心の城門をガーーーン!! と下ろしたほど。
気質もおだやかで、かと思えば毒っ気もあり、そんなバランスも心地良く。さらに共通するマニアックな趣味があって話題に困らず絡みやすかった。

しかも独身! 彼女なし! 同世代! もうこれはいくしかない!という相手だった。

しかしそこは、好きにならずにいたい体質。閉じた城門の小窓から薄目で彼を眺めつつ、はやる気持ちを凍結して「メモリアルパーク・好きにならずにいられてよかった墓地」へと涙ながらに彼を葬った。

そんなやぶ男たちが、私の心の中には「始皇帝の兵馬俑」みたいに歴代ズラリ並んでいる。


それなのに、何の奇跡かそのやぶ男氏が「仕事で近くまで来たので今日ご飯でもどうですか?」なんて電話をくれたのだ。

行くよね、そりゃ。食い気味に「行きましょう何食べたいですか!?」って訊いてすぐ行きつけの店が定休日じゃないか確認したよね。


浮かれた。浮かれていいと思った。

だって、こんなことこれまでにあった!? パソコン画面がスリープ状態に落ちてなお思い出せない……。


が、彼はしょせん兵馬俑の一体予備軍。下手に期待などしないが吉なのだ。


なので暫定「ただ共通の趣味があるから、その話をしたいだけなのだろう。なんならオフ会?」ということにしておいた。


さてしかし、私とやぶ男氏が趣味友以上の関係に発展する可能性はあるのだろうか?

そんな疑問とそれでいて小さな期待も抱きつつ、待ち合わせ場所で久しぶりに再会した彼はやはり、ハッとするほど好きな顔だった。


ご飯を食べながら、近況を聞き、生い立ちを聞いた。彼の趣味の話に没頭した。「すみません僕の話ばかりで」というエクスキューズを否定する気も起こらなかったくらい彼の話ばかりで、私自身に関心はほとんど向けられなかったように思うけど、顔立ちがイイので機嫌よくずっと聞いて(見とれて)いられた。


それでも、彼に幾つか質問をした。

私「やぶ男さんは、多分女性からモテると思うんですけど、誘われたりしてご飯食べに行ったりしないんですか?」

「……行かないですね。というか、ご飯っていっても、僕、食欲ってないんですよね

え!!!

「や、お腹空いてないとかの食欲じゃなくて」


分かる分かってる、そっちの意味だよね。


「食事しなくて済むならそれに越したことないっていう」


そっか……。私は食べるのすごく好きなんだけどなぁ……。


ものすごくガッカリしつつも、この段でかなりホッと安心した自分がいた。 「好きにならずにいられて良かったと思える理由がはっきりと見つかった!!」と……。 だって食べることが大好きな私には、食べることに興味のない人は合わないんじゃないかと思うのだ。


でも、そんな人が私に会おうとしてくれるのは、ただ共通の趣味ゆえ? ただそれだけ? としたらその趣味どんだけ好きなの!?

 

そして一方、ムクムクと湧き上がるもう一つのザワつきが……。

"食欲がない人は、アッチの欲もない、もしくは少ない" んじゃなかろうか? と。

我慢できずに訊いてしまった。

私「え、じゃあその…… 恋愛欲は? (オブラートに包んだー!) 」


や「……」

私「睡眠欲とかも? (設問されに増やしてぼやかしたー!)」


や「ないですね……。人と付き合ったりもこれまで勿論してきましたけど、そういう相手がいない方が精神的に落ち着くんですよね」


なるほど。恋愛のドキドキやトキメキに付随する面倒なものを厭がり、精神の安定の方を取る人ね。……分からなくもないけど、いや分かるけど、こういう人を好きになったらたまったもんじゃないよなぁ……超カッコいいし。ますます加算されていく"好きにならずにいられて良かったポイント"。

「睡眠もしないで済むならその方が」

……だろうね。 はー。好きになりたくない、こんな人。でも顔チョー好きなんだよなぁ。


私「じゃ、食べ物の中でコレは美味しいな〜ってのは?」

「……」

刺し身とか! 肉とか! なんかあるでしょうに!

「……ポテト?」

っぽ!?!?!?

ポテトとかは、好きです

ポテトかぁぁあ。うん、ポテトね。美味しいよねポテト。フライドポテトだよね? 私も大好き。揚げたてもいいけど、しんなりもいいよね。でも……一番かな? 死ぬ前に食べたいのとか、ポテト?

あれ? でも、ポテトなら、イモっぽい私にも脈あったりする!?


あまりにも美食家らしい料理や高級な食材を好きって言われたら、
「ですよねそれマジ美味いっすよね、女性の好みも私じゃ俄然敵わない感じなんでしょうね」ってなるけど、ポテトなら、
「え? ポテトでいいんですか? 芋ですよねポテトって?」
ってなるみたいに、好きな女性のタイプ訊かれて、

おーしまさんかな? おーしまさんとかは、好きです
みたいなことにならないかな?

……ならねっか。

好きって言ってくれないかなぁ。そしたら私も好きなのに。

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*「デリケートに好きして」詞 古田喜昭

ミームの箱船|大島智衣

〜ミーム(意伝子)の箱船を漕いでいく〜 脚本家、エッセイ・コラムニスト 大島智衣のwebサイト