チョコひと粒の恋- 好きにならずにいられてよかった〈5〉

とある男性にインタビュー取材をしたときのこと。

話を聞くうちにどんどんとその彼の魅力にノックアウトされまくった私は、心の顔面が試合後ボッコボコのボクサーのようになってしまったのだった。おかげでその日の夕飯はチョコ菓子のBAKE(ベイク)一つで済んでしまったくらいだ。

そして帰り際に彼が寄ってきてくれて強くギュッと握手され、

「今日はお会いできて良かったです」

と言ってくれた言葉を反芻しまくっていたのだった。

だけど、もう完全に大好きになっていたし「あ〜彼とデートとかしたら楽しいだろうな〜」とか控えめに妄想したりしたけど、だけど! だからってどうにもならないよな、といつものように完全に諦めてはいたのだった。

それでも、それから丸一日彼のことを思い返しては、チョー好きだなー。はーあ。を繰り返し、テープ起こしのために取材時の録音を聞きながら、私の声これ完全に「好き」じゃん。「好き」の音階で話してるじゃん……と省みながらもニヤニヤが止まらない恥ずかしい時間を一人過ごしていたのだった。


そしてふと、「今日はお会いできて良かったです」の時も確かまだ録音してたはず! と最後までドキドキしながら聞いていると……「今日はお話しできて良かったです」と彼の声。


何度リピート再生しても、
「今日はお話しできて良かったです」

え? 

お話し? 「会えて」じゃなくて「話せて」だったのか。話せて……か。会えて、じゃなくて。


……「会えて」と「話せて」じゃ全然違う!!!


なんか、イイように記憶をすり替えていたみたいなのだった。

話せて良かった、ってのもある意味肯定的な言葉で嬉しいけど、そこはやっぱり、

「会えて良かった」
→「今日はあなた(私)に会えて良かった」
→「あなた(私!)は運命の人だ」

……くらいの意味に捉えたいのだ相手に好意を抱いている側としては。


だって、キョンキョン小泉今日子の歌は、

♪あなたに会えてよかったねきっと私〜
なのであって、

♪あなたと話せてよかったねきっと私〜
じゃない。ゴロも悪いし、あっそう。社交辞令か。って感じだ。


やっぱそうだよね。私が勝手に、運命の出会いを熱望するあまりに彼のただの挨拶を脳内変換してしまっただけのこと……。

やめだ、やめい! 真面目にインタビュー記事書き上げないと! と気を引き締め、好きにならずにいられてよかった。と今回もホッと胸をなでおろしたのだった。

あっという間にとけてなくなってしまった恋だったけど、BAKEひと粒だけで満たされるような熱量をくれてどうもありがとう。大好きなBAKEと同じくらい大好きでした……!涙
いつか1ダース分の、胸焼けするくらいの本物の恋に身を投じられますように。


 

ミームの箱船|大島智衣

〜ミーム(意伝子)の箱船を漕いでいく〜 脚本家、エッセイ・コラムニスト 大島智衣のwebサイト