湯上がり銭湯男子 - 好きにならずにいられてよかった〈4〉

好きにならずにいられる理由を探してホッとしている。
好きになってもらえるはずがないから、傷つく前に早々退散。
ホントはどーでもいい理由にかこつけて。
好きにならずにいられてよかった、恋に落ちてもよかった瞬間。

原付バイクを走らせ家まで帰る夜道、信号待ちをしていると前方から見覚えのある男子が自転車に乗って近づいてきた。暗くてよく見えないけど、やっぱり。バイト先で一緒の王子系男子だった。思わずすれ違いざまにヘルメットをパカっと開け叫んだ。

「○○君! おーしまです! ○○のバイトの!」
がっつりフルフェイスのヘルメットを被っていたから、目しか見えてないんじゃ私が誰か分からないかもしれない。大きな声ではっきりと、夜の路上で、自分の名前・勤務先・雇用形態を叫んだ。 

「おーしまさん! や、あの今、銭湯行って来たんです! ニコリ☆」

ホカホカしている。乾かしたてのホカホカの髪、洗いたての上気した顔。ほぼ部屋着と見受けるその服の首元からも、ホカホカと湯気が上がっているようだった。ホカホカに仕上げられた湯上がり銭湯男子が目の前にいた。

そんな無防備にホカホカしちゃって……。好きになっていいんですか!? 

ただの職場の同僚と、突然のホカホカシチュエーション。しかし心の中ではさっそくクラクション。

(ダメだ、好きにならずにいろ! こんな銭湯王子が私のことを見初めるわけがない!)

「家ここら辺だったもんねぇー」なんて2・3短く会話をし、「あ! 信号青だから!」とアクセルを切って逃げるようにその場から走り去った。

だって銭湯って、家にお風呂ないってこと? 確か、実家出て一人暮らしだよね。風呂無しアパート? お金ないのかな。どっか伯爵家の子息みたいな出で立ちなのに。や、私も昔はそんな彼氏の家の台所のシンクでシャワー(?)浴びたことあるよ。若かったしいい思い出。でも今はできないなー。銭湯通いも毎度毎度はしんどいよー。ゴメンね、風呂無し男子。もっと若い子と若い恋をして! 

そんなことを考えながら原付で風に当たるうち、私の中のホカホカはすっかり湯冷めしてしまった。


後日、銭湯男子に尋ねると、

「え、お風呂ありますよ。笑
たまにゆっくり湯船に浸かりたくて銭湯行くんです」


なーんだ、ワケあり苦労人男子とかじゃないんだ。

熱い湯船に浸かりたい。そうして、のぼせるくらい恋してみたい。鼻血出たっていい。

 

 

 

ミームの箱船|大島智衣

〜ミーム(意伝子)の箱船を漕いでいく〜 脚本家、エッセイ・コラムニスト 大島智衣のwebサイト