発泡し続けろソーダ水 - 好きにならずにいられてよかった〈3〉

好きにならずにいられる理由を探してホッとしている。
好きになってもらえるはずがないから、傷つく前に早期撤収。
ホントはどーでもいい理由にかこつけて。
好きにならずにいられてよかった、恋に落ちてもよかった瞬間。

彼に手渡されたソーダ水を開けると勢いよく炭酸が噴き出してそれはもう恋のはじまり、盛大なファンファーレでしかなかった。

持ち寄りパーティでお酒を割る炭酸水が切れたので買い出しに行ってくれた彼は、そういえばずいぶん早く戻って来た。そして、その炭酸水がブシユッ!!!!! と派手に弾けた瞬間、彼の道中の振動が、はやる鼓動が、気泡となって私に降り注いだ。

どんだけ急いで走って買って来てくれたの? 好きになる以外ないよねこんな仕打ち。手や服が、お気に入りの靴が、泡だらけで濡れてアワアワしたところで何? もう大好きだよこんな人! 好きにならずにいられるはずがなかった。

なのに、好きにならなかった。 
彼女いないし、活力ある感じだし、小指の爪もたぶん伸ばしてなかった。なのに……ナゼすぎる。

顔? 結局は顔が好みじゃない? そんなことで!?

もう、こんな私がダメだ。こんな私に好きになられなくて彼はよかったんだ。付き合ったって、初めてのケンカで「はいはいどーせあのとき、外にすぐ自販機あってそこで買ったのをガンガンに振って差し出したんでしょ!」とか邪推しいたずらに彼を傷つける。いいことないよ、彼にとって。

だからきっと……好きにならずにいられてよかった。
一度フタを開けてしまった炭酸水は気が抜けていくのだ仕方ない。

ミームの箱船|大島智衣

〜ミーム(意伝子)の箱船を漕いでいく〜 脚本家、エッセイ・コラムニスト 大島智衣のwebサイト