その粒の正体

ぼんやりとしている風で本当はずっとかなしい。三日臥せってようやく外に出る。頭痛。駅に降りたらお菓子を買って帰ろう。唯一私をなぐさめてくれる。
 車内で目線を落とした先には小学校の頃大嫌いだった男子の面影。まさか、気づかれたろうか。とにかく目をつぶる。同じ駅で降りた。確信してもいい。
 お菓子を買うところを久しぶりの同級生(それも大嫌いな)には見られたくない。DVDでも、とレンタル屋へ行くとレジで中年男性が店員にずーっと何か怒鳴っている。めんどくさーいヤな感じのクレーマー。怒声響き渡る店内を、邦画からアジア映画のコーナーへと曲がったら途端ものすごくクサい。いろんな意味で不穏すぎる空気。息も絶え絶えに店を出た。
 マンションのエントランス前には向かい合う男女。男の手にはプレゼントの包装袋とその中身だったっぽいファンシーな形状のふわっとした何か。恋愛関連の待ち伏せ告白???と思ったけどなんかモメている。私が近づくのを察知した男女は脇に寄って声をひそめ、通りすぎると男はものすごくイライラと不愉快そうな口調で「恥ずかしいよ、ホント。こんな恥ずかしいの初めてだから」と彼女をなじり上げている。

どうしたんだ本当に今日に限ってこの街は!

男女の結構本域なクライシスに気持ちの整理が間に合わず、寄ろうとしていたコンビニを通過。その先のスーパー(自宅までで最後のライフライン)で今度こそ、とやっと店へ。けれど目当ての菓子類は売っていなくて他に何か、と時間かかって手に取ったのは「ごぼうスープ」。お昼のお弁当のときに一緒に飲む用。だがこれだけのために会計を? 億劫だ。かといってあと一品? その一品が選べない。何を食べたいのか、何を食べたらうれしいのかおいしいのか、判断がつかない。スープを棚に戻して店を出た。
 手ぶらで帰宅。だけど本当は、お菓子買いたいなんて本当は、ぼんやりうわの空に帯びた薄い白い雲。空気中の水分が細かい水滴となり浮かんでいる状態。本当は、携帯の着信音をオンにするかバイブにするか、オンにしてても静かな着信音に気づけるのか、バイブにしたら振動に気づけるのか、オンにしながらバイブは必死過ぎる。いやそもそも! 連絡は来るのか来ないのか。来ないよね来ない、来るわけないよね、ないよねないない、ないよなーい、って、ずっとかなしかった。

やっと家に着いて、とにかくお腹は空いていて、お餅を2個焼いて食べた。これを食べてもお腹いっぱいにはならないとわかって食べた。食べても食べてもお腹は空いていて、胃はもたれてるけど空腹。空いてるのはこころで、これが、恋だ。

ミームの箱船|大島智衣

〜ミーム(意伝子)の箱船を漕いでいく〜 脚本家、エッセイ・コラムニスト 大島智衣のwebサイト