えだまめ女子とブロッコリー男子の恋 - 好きにならずにいられてよかった〈8〉

好きにならずにいられる理由を探してホッとしている。
好きになってもらえるはずがないから、傷つく前に早々退散。
ホントはどーでもいい理由にかこつけて。
好きにならずにいられてよかった、恋に落ちてもよかった瞬間。


枝豆をひたすらハサミで切り落とすバイトをしたことがある。

真夏の三浦半島の、枝豆農家のドデカい倉庫で、日がな一日、ドサッとコンテナに収穫されてきた枝豆束から、パチパチと枝豆の房だけを切り落とすのだ。

周りは地元のおばちゃんだらけ。だけどその中に一人、若い男子がいた。

若い男子だから、当然目が行く若い女子の私(当時)。

背が高く、髪はやや伸ばしっぱなしめで、顔はたんぱく。今思えば少し俳優の高橋一生さんみたいな物憂げ男子で。黙々と枝豆を倉庫へ運んで来ては、うつむき加減にけだるくも、パチパチやっていた。なんかイイ感じだった。

そして、ひと月ほどの短期枝豆バイトの最終日、自販機で缶ジュースを買っている彼に私は声を掛け、飲みに誘った。ほぼ初めて話し掛けたにも関わらず、なぜか彼はOKしてくれたのだった。

三浦海岸にほど近い居酒屋で、私は彼と呑んだ。

何を喋ったかあまり覚えていないけれど、彼がやはり三浦半島の農家の、しかもブロッコリー農家の跡取り息子だということが分かった。

「緑色のブロッコリーだけじゃなくて、赤いのとか紫色とかのブロッコリーも作ってて」

色とりどりのブロッコリーを育てる三浦半島の高橋一生……。

イイ感じじゃないか! 嫁いでもいい! そんな風にさえ思った。

そして気分良く酔っ払った私は、「これから砂浜、行きましょうよ!」と誘った。

すると一生、

「海は……今度にしましょう。今日は友だちが車で待ってるんで」

友だちが車で待ってる……? えっと……いつから?

「俺を車でココまで送ってくれて、で、すぐ近くで待ってくれてます」

え、ずっと!? それ、誰? ホントに友だち? 私、勧誘か何かと怪しまれてる!?

もう一気になんだかよく分からなくなった。

でも彼には、私と "夜の砂浜散歩がしたい" までの気持ちはないことは分かったので、その日はおとなしく京急に乗って帰宅したのだった。彼と会ったのはそれが最後だ。

枝豆は、鮮度が命! それは恋も同じ。

でも。

枝豆の鮮度を保つには、2センチほどの枝についたまま切り落とすのがコツなのだけれど、そんな枝は、恋には不要だ!

会う度に友だち(?)が近くで待機してるような人と恋の進展なんて期待できない!

……と、またしても、好きにならずにいられてしまった。だけどもそれで、よかった。

本当は三浦海岸の砂浜に呼び出して、

「こっちは女一人、丸腰で来てんだっ! 恋はタイマンが基本だろが! 男らしく単独行動しろい!」

とかメンチ切ってやりたかったけど……。

(でももしかしたら、すっごいお坊っちゃまで、黒光りする車の中では爺やが待っていたかもしれない。

それでも恋となったら、爺やには申し訳ないけど待ちぼうけ食らわせてでも突っ走って欲しいじゃない?)

何万房と切り落とした枝豆と一緒に、パチンと散った恋だった。

ミームの箱船|大島智衣

〜ミーム(意伝子)の箱船を漕いでいく〜 脚本家、エッセイ・コラムニスト 大島智衣のwebサイト